キムリアはなぜあんなに高価なのか?
薬価を決める要因には、様々なものがあります。
製薬会社単体で決められるものではありません。
もちろん、ロビー活動などの政治的な駆け引きが無かったとは言いませんが、薬価を決めるのは厚生労働省を中心とした国の組織です。
■類似薬があるかどうか
今まで無かった治療薬を一から創り出したという場合には、次のような基準で判断されます。
1.その薬を現実の薬剤とするためにどの程度のコストが必要なのか
通常の治療薬は、工場で大量に生産されます。
少々バラエティーに富んでいたとしても、ロジスティクスシステムを活用して、上手に在庫を管理しさえすれば問題ありません。
一方、キムリアと呼ばれる薬は、Chimera Antigen Receptor T therapy 略して CAR-T というものです。
日本語では「キメラ抗原受容体T細胞療法 」と訳されます。
患者から採取したT細胞を遺伝子的に改変し、キメラ抗原受容体を作り出せるようにすることで「薬にする」わけです。
・「投与対象患者から採取したT細胞」が原料のひとつなわけですから、作り置きというのが不可能です。
・よって、大量に作ってコストを下げることが出来ません。
・T細胞を遺伝子的に改変させるのに手間がかかります。
・遺伝子改変したT細胞を、安全に一定の品質を保って培養するのに手間がかかります。
これを、注文がある毎に繰り返さなければいけないのでコストが上がるのです。
2.海外で、同様の薬はどのくらいの価格なのか
日本だけやたらに高い価格となれば問題がありますので、海外での流通価格が参考にされます。
キムリアの場合、この2つが薬価の基準となりました。
ただ、これ以外の条件も加わっているのではないかと考えます。
3.その薬の使い方と効果のバランス
もしもキムリアが、3年間毎月投与であった場合、こんな価格にはならなかったと思います。
たった1人の患者さんを治すのに、数億吹っ飛ぶとあれば、健康保険で払うわけにはいきません。
一発勝負で、効くときは寛解まで持っていけるという特徴が薬価に影響していると考えられます。
4.対象となる患者数はどの程度考えられるのか
例えば、小野薬品のオプジーボは、悪性黒色腫と呼ばれる皮膚がんの薬として認可されました。
悪性黒色腫は患者数が非常に少ないこともあり、高い薬価が設定されました。
高価であったことが話題なったこともありますが、海外で安く販売されている例があったこと、肺がんにも適応が広がったことなどから、薬価は下がりました。
キムリアの対象は、白血病と悪性リンパ腫のうち一部の患者が対象です。
日本全国で、年間200人程度がかかる程度と言われています。
あまり安い薬価に設定してしまうと、研究コストが回収できないだろうと考えられます。
これらの条件を勘案して、3,000万円を超える薬価になったのです。