一線を越えると戻れない糖尿病のはなし
みなさん、糖尿病がどんな病気か知っていますか?
また、どんなイメージを持っていますか?
血糖値が高い、おしっこが甘いらしい、のどが渇くetc……
どれも間違いではありませんが、ここは日本で最も権威のある一般社団法人 日本糖尿病学会の報告書から引用させていただくこととしましょう。
糖尿病とは「慢性的な高血糖」を主な症状とする病気の集まり
糖尿病は,インスリン作用の不足による慢性高血糖を主徴とし,種々の特徴的な代謝異常を伴う疾患群である.その発症には遺伝因子と環境因子がともに関与する.代謝異常の長期間にわたる持続は特有の合併症を来たしやすく,動脈硬化症をも促進する.代謝異常の程度によって,無症状からケトアシドーシスや昏睡に至る幅広い病態を示す.
糖尿病の分類と診断基準に関する委員会報告 (国際標準化対応版)2012より引用
ここで最初に注目すべきは、「疾患群(しっかんぐん)」という言葉です。
これは「糖尿病」という名前の病気があるわけではなく、糖尿病はさまざまな病気の集まりであることを意味しています。
そして、これらの病気は「代謝異常(たいしゃいじょう)」を伴っており、中でも「インスリン作用の不足による慢性的な高血糖が主な症状(主徴)である」と書かれているのです。
簡単に言うと、糖尿病というのは「慢性的な高血糖」を主な症状とする病気の集まりだということです。ですから、厳密には糖尿病は症状であって病気ではないということです。
言葉遊びのように聞こえるかもしれませんが、割りと大事なことなのでもう少しだけおつきあい願いましょうか。
症状というのは、なにか原因があって、それによって引き起こされる、さまざまな状態を表します。
たとえば、腰が痛いと言う場合、「痛み」は症状です。鎮痛剤で痛みを軽くしても、なぜ腰が痛いのかを調べて治療しないと、いつまで経っても治りません。
糖尿病にかかると病院にいくわけですが、症状を緩和するお薬(血糖値をコントロールするお薬)をもらうことはあっても、糖尿病を治すお薬をもらう事はできません。
先ほどの、痛みの話と同じです。どれだけ高血糖と言う症状を軽くしても、原因を治療しない限りは良くならないというわけです。
なぜ糖尿病になるのか
では、糖尿病の原因は何かというと、引用文献では「インスリン作用の不足」という表現がされています。
インスリンと言うのは、血液中のブドウ糖を減らすように働きかける物質です。
このインスリンが必要とする量に足りないということです。
逆に言えば、必要な時に必要な量のインスリンが作られる様になれば糖尿病は治ると言う意味でもあります。
もっと言えば、「インスリン作用の不足」の原因は何かということになります。
引用文献では、「発症には遺伝因子と環境因子がともに関与する」と書かれています。
遺伝因子というのは、「生まれながらにして持っている」「きっかけ(因子)」であり、環境因子というのは、「生活習慣や住んでいる環境など」生まれた後に選ぶことのできる「きっかけ(因子)」です。
良く聞く「食べ過ぎ」や「運動不足」は、分かりやすい環境因子のひとつです。
なぜ糖尿病になるのかをまとめると
・生まれながらの体質(遺伝)で、インスリン作用が不足することを避けることが出来ずに「糖尿病になる」
・生まれながらの体質(遺伝)だけではインスリン作用が不足することはなかったが、体に負担をかける環境で過ごすことでインスリン作用が不足して「糖尿病になる」
このようになります。
糖尿病は治るのか
糖尿病の原因はわかったけれども、それでは治るのでしょうか?
遺伝因子を変えることはできませんが、「食べ過ぎ」や「運動不足」と言った環境因子を変えることは可能です。
ならば、沢山の方々が治りそうな気がしますが、残念なことに、現代の医学では「インスリン作用が不足した人」を「インスリン作用が不足しない人」へと治療することは出来ません。
人間の体はある程度までならば起こったことを元に戻す事ができます。
しかし、ある一線を超えてしまった場合にはもう元に戻すことは出来ません。
難しい言葉で言うと「不可逆的(ふかぎゃくてき)」という言い方をします
薬を使わずに、「運動をしましょう」「食事に気をつけましょう」と言う段階までは、まだ元に戻すことができます。
この段階を表すためによく使われるのが「糖尿病予備軍(とうにょうびょうよびぐん)」という言葉です。
糖尿病予備群は、「生活習慣の改善」と言う治療をすることで、「完治」することが可能です。
ここを一歩超えて、「糖尿病」と呼ばれる場合には「薬を使いましょう」と言われるわけですが、言い換えれば「もう何をやっても体を元に戻すことは出来ないので、薬を使って体を補助しましょう」と言うことになります。
今回は、糖尿病について解説してみました。