「病は気から」は、本当か?
北海道大学の研究
2017年8月15日付けの朝日新聞に、ストレスで胃腸の病気や突然死を招くメカニズムの一端が解明されたと言う記事が掲載されていました。
記事によると、北海道大学の上村正晃教授(免疫学)のチームが行った研究発表で、オンライン科学誌イーライフに論文が掲載*されているとのこと。
教授らの発表によると、自分の神経細胞を攻撃する免疫細胞とストレスの双方が揃うことで突然死が起こるのだそうです。
免疫細胞によって脳の血管にわずかな炎症が起こり、この炎症を切っ掛けとして、通常はない神経回路が作られ、胃腸や心臓に不調をもたらしているというのがそのメカニズムです。
肺がんと婚姻の関係
例えば、2012年のChicago Multidiciplinary Symposium in Thoracic Oncology(胸部腫瘍学における多分野シンポジウム)**では、結婚の有無が、3期の非小細胞肺がん患者の生存率と関連している可能性について発表されました。
全ての生存患者の平均生存期間は13ヶ月、3年生存率は21%でした。
これを、結婚状態別に分けると、婚姻をしている女性の3年生存率は46%だったのに対し、独身男性の場合はわずか3%にとどまったのだそうです。
大腸がん、乳がんと社会的な支え
また、国立がん研究センターの発表***では、社会的な支えの有無によって大腸がんの発生率や死亡率に違いがあることを明らかにしています。また、その記事中では欧米での乳がんの例にも触れられていました。
欧米の研究では、社会的な支え(心身を支え安心させてくれる周囲の家族、友人、同僚などの存在)の少ない人では、多い人に比べて、乳がんの発生や死亡のリスクが高いことが報告されています。人と人とのつながりの少ない人は話し相手がいないため、不安や悩みを誰にも打ち明けられずに一人で問題を抱えてしまい、そのことが悪い健康行動やストレス等を介してがんなどの疾病に影響すると考えられています。
社会的な支えとがん発生・死亡リスクとの関連について(国立がん研究センター)より抜粋
さて、国立がん研究センターの発表ですが、社会的な支えが充実していると考えられる男性を「1」とした場合、社会的な支えが少ない男性は、大腸がん発症率が1.5倍、大腸がんでの死亡率は3倍と言う結果でした。
ここでは、社会的な支え(心身を支え安心させてくれる周囲の家族、友人、同僚などの存在)の数が1人やそれ以下の場合を、社会的な支えが少ないと捉えています。
社会的な支えとがん発生・死亡リスクとの関連について(国立がん研究センター)より
「病は気から」を本来の意味で、気の持ちようで病気になることもあればそうでないこともある、と捉えるならばこれは間違いです。
いや、間違いではないのかもしれませんが「証明することはたぶん無理」です。
朝から晩まで過労死寸前まで働いて突然死した人に対して、あなたの気の持ち方ひとつで変わったのに。
などと言うのもおかしな話で、過労死寸前まで働かせなければ良いだけです。
何らかの負荷をかけて、または負荷がかかっているのに、その原因を取り除くのではなく、個人のメンタルに責任転嫁するのであれば、科学的根拠とは言い難いでしょう。
そうではなく、人々の精神状態が、病気やその治療に大きく関わっていると言う風に捉えるのであれば、およそ事実ではないかと思われます。
いかにして環境を整えてゆくかというのも、病気の治療には大きな力となるのです。
注記
*Brain micro-inflammation at specific vessels dysregulates organ-homeostasis via the activation of a new neural circuit.
(特定の血管における脳の微小炎症は、新しい神経回路の活性化を介して器官 – 恒常性を調節不全にする)
https://elifesciences.org/articles/25517
** 結婚の有無が3期のNSCLC患者の生存率と関連している可能性【ASTRO-IASLC-ASCO2012】
2012/09/07 日経メディカル記事より参照
http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/all/search/cancer/news/201209/526667.html
*** 社会的な支えとがん発生・死亡リスクとの関連について(国立がん研究センター)
http://epi.ncc.go.jp/jphc/outcome/3294.html