痛み止めや抗菌剤ががん治療に(ドラッグ リポジショニング)
ドラッグ リポジショニングとは
ドラッグ リポジショニングと言うのは、ある病気に効果があるとされている既存の薬を、別の病気に使うという試みの事を言います。
医薬品には必ず「適応症」というものがあります。
「この薬は、この病気の治療に使えますよ。」というリストのようなものです。
これらの薬に、適応症以外の使い方は無いのか模索しようというわけです。
どんな薬にも「副作用」があります。
すなわち、目的とは異なる効果が表れているということです。この副作用の中に病気の治療に効果的なものがあるかも知れません。
アスピリンががん予防に?
ドラッグリポジショニングの例として最初にご紹介するのがアスピリンです。
誰もが一度は聞いたことがある、そして気づいているかは別として、飲んだことがあるだろう鎮痛剤です。
このアスピリンを使ってがんの予防や治療が出来ないかと言う研究があります。
2015年には、ダナファーバーがん研究所、ブリガム&ウィメンズ病院(BWH)の研究者らによって3,000人の乳がん患者に対して研究を行うことが発表されています。*
また、2016年のJAMA oncology誌オンライン版に掲載された論文では、最長30年にもわたるアスピリン飲用者の追跡調査を分析することで、がんとアスピリンの関係を分析しています。**
この結果、いくつかのがんで死亡率が低下していました。
大腸がんでは男性31%、女性30%。乳がんでは11%、前立腺がんは23%、肺がん(男性)は14%低かったのです。
もちろん、この結果をすぐに当てはめて、誰もがアスピリンを常用すべきだという結論に導くのは早計ですが、既存の薬に思ってもみなかった働きが隠されていても不思議ではないことが、少しは伝わったかと思います。
肝炎治療薬が前立腺がん治療に
先程の例は、どちらも外国の例でしたが、今度の例は日本国内での話です。
前立腺がんは、男性に特有の病気で、ホルモン剤による治療が効果的なことが知られています。
ホルモン剤に効果がみられなくなった時に、抗がん剤を選択するのですが、この抗がん剤に効果がみられなくなった時に使える方法が少ない点が課題として挙げられていました。
この課題を解決するかもしれないのが、C型肝炎ウイルス治療剤「リバビリン」です。
「ドセタキセル」という薬が効かなくなった時に「リバビリン」と併用することでふたたび効果をあらわすと考えられるのです。
2015年には、ヒトを対象とした臨床試験で効果が確認出来たことから、2016年からは慶應義塾大学の病院で通常の医療現場を通した医師による治験が開始されています。***
先にお伝えした二つの例以外にも、世界中で様々な試みがなされています。
次回は、そんな薬剤開発のこれからについて最新の情報をお伝えしたいと思います。
参照
* Could Aspirin Treat Breast Cancer? (Cancer Connect.com)
http://news.cancerconnect.com/could-aspirin-treat-breast-cancer/
** Population-wide Impact of Long-term Use of Aspirin and the Risk for Cancer. (JAMA oncology)
http://jamanetwork.com/journals/jamaoncology/article-abstract/2497878
*** 世界初、リプログラミング療法の臨床試験に成功 ―前立腺がんの進行に対する新たな治療法に― (慶應義塾大学プレスリリース)
https://www.keio.ac.jp/ja/press_release/2015/osa3qr0000016964-att/20151029_1.pdf