腸内環境を整えるための4つの秘訣
これまで腸内細菌の記事や腸が第二の脳であるという記事をお届けしてきました。
腸が大事である、腸内細菌が大事であるということをお伝えしたわけですが、今回はどのようにして腸内環境を整えれば良いのかという点についてお話したいと思います。
腸内細菌は微妙なバランスで構成されています
腸内細菌を大きく分けると、「善玉菌」「悪玉菌」「どちらでもない中間の菌」の3つに分けられます。
「善玉菌」と「悪玉菌」、「善玉菌+中間の菌」と「悪玉菌」に単純に分けて、悪玉菌の居ない腸内になれば、もしかしたら素晴らしいことかもしれませんが、そういう訳にはいきません。
理由のひとつは、悪玉菌も人間の役に立つ活動をしているからです。例えば、タンパク質の分解が得意なウェルシュ菌が全く居ないと、お肉を消化するのに困ってしまいます。
それぞれの細菌が活動して排出する物質も、理由に挙げられるでしょう。
排出される、または作り出される物質が、他の菌にとって必要になる場合がよくあります。
また、菌の種類は膨大なもので、少ない場合でも100種類、多い場合には3000種類以上生息すると考えられています。(Wikipediaより)
例えば、三すくみという言い方をします。じゃんけんだとグーチョキパーそれぞれに天敵がいる状態です。どれかひとつ無くなれば、バランスが崩壊してしまうわけです。
腸内細菌にもこういった組み合わせが多数存在します。
このため、自分が好ましいと思う腸内細菌だけを育てようと考えても、努力は無駄に終わる可能性が非常に高いです。
また、次の例で挙げていますが、食生活を変えるだけであっという間に腸内環境が変化してしまいます。
腸内環境を良くするための前提条件としては、
・善玉菌を優位に持ってくる(決して悪玉菌0は目指しません。)
・腸内環境に良い食生活を継続的に続ける
ことが大事になってきます。
肉を食べすぎない
肉を食べすぎてはいけないと言う話は色んな所で耳にします。
WHOを始めとした世界の代表的な研究機関においても、肉の食べ過ぎは良くないと言う見解で一致しています。
では、肉と腸内環境にはどのような関係があるのでしょうか?
これには、アメリカ・イギリス・南アフリカの様々な研究機関が集まって行った研究*が参考になるでしょう。
2015年にネイチャーコミュニケーションで発表されたこの研究は、たった2週間食事の内容を変えることで、腸内環境が変化することを示しています。
ネイティブなアフリカ人**が大腸がんにかかる割合は、1万人に5人未満と殆ど大腸がんにかかりません。
一方で、アメリカに移住したアフリカ系アメリカ人においては1万人に65人と大きな差が見られます。
この違いが食事にあるのではないかと仮説を立て、アフリカ系アメリカ人とアフリカ人をそれぞれ20人宿舎に泊めて食事を管理してみたのです。
実験開始前に、便の検査と内視鏡による大腸検査を行った後で
アフリカ系アメリカ人には、高繊維で低タンパク質のアフリカの伝統的な食事を、ネイティブなアフリカ人には高タンパク質で高動物脂肪で低繊維のアメリカ型の食事を「2週間」食べてもらいました。
終了後には再び、便の検査と内視鏡による大腸検査を行いました。
これで、食事の違いがどの様に腸に影響するかがわかるだろうと考えたのです。
結果は劇的で非常に分かりやすいものでした。
・アメリカ型の食事をしたネイティブなアフリカ人の腸内環境は大きく悪化し、がんに関連する数値が大きく上昇。
・アフリカ型の食事をしたアフリカ系アメリカ人の腸内では炎症が減り、がんに関連する化学物質が減少。
という結果になったのです。
たった2週間だったにも関わらず、アフリカ系アメリカ人では腸内細菌の種類も変わったと言います。
これほどの変化が起こるというのですから、「高タンパク質で高動物脂肪で低繊維=お肉をたくさん食べる」内容の食事は避けたほうが良いと言えます。
食物繊維は乳酸菌やビフィズス菌の餌になる
食物繊維とは、人間の持つ消化液では消化できない炭水化物の事を言います。
しかし、腸内細菌にとってもそうとは限りません。
腸内細菌は、食物繊維を分解することが出来るのです。
それだけでなく、食物繊維を利用する腸内細菌の多くが善玉菌と呼ばれるタイプの腸内細菌です。
乳酸菌やビフィズス菌と言った有名な善玉菌も、食物繊維を餌にして活動をしています。
食物繊維を多く摂って善玉菌の活動を後押しすることで、腸内環境を整えることが出来るのです。
また、食物繊維を使った善玉菌の活動は、短鎖脂肪酸と呼ばれる乳酸・酢酸・酪酸といった物質を作り出すことで、腸内環境を弱酸性に保ってくれます。
腸内環境が弱酸性になることで、悪玉菌の活動が抑えられ腸内環境が良くなります。
それだけでなく、作り出された短鎖脂肪酸は、腸に吸収されて腸やその他の臓器が活動するためのエネルギーとしても利用されます。
ビフィズス菌や乳酸菌を含む食品をたべる
善玉菌が必要ならば直接食べればいいじゃないかというのがその考え方です。
医学的・科学的にこのようなアイディアが出る前から、知ってか知らずか人類は善玉菌を直接補給しつづけています。
ヨーグルト・乳酸菌飲料・納豆・漬物 などが善玉菌を含む食材の代表格です。
ただ、これらの食材に住む善玉菌が直接腸に届いて活動を始めるのかというと、肝心の腸に届いたときには善玉菌の死骸になっていることが珍しくありません。
大半は体内で分泌される消化液によって殺されてしまうのです。
とはいえ、全てが死ぬわけではありませんし、善玉菌は死骸になっても役に立つのです。
厚生労働省のページによると、以下の様に書かれています。
善玉菌を継続して腸内に補充すると効果的であるため、毎日続けて摂取することが勧められます。善玉菌は生きて大腸まで到達しないと意味が無いと言われますが、死んでしまっても善玉菌の体をつくる成分にも有効な生理機能が期待できますので、必ずしも生きて腸まで届く必要はありません。
厚生労働省 e-ヘルスネット 腸内環境と健康より
オリゴ糖を摂る
上で食物繊維を摂ることをオススメしましたが、オリゴ糖をたくさん含む食材を食べることも効果的です。
善玉菌の餌として活躍してくれます。
大豆・たまねぎ・ごぼう・ねぎ・にんにく・アスパラガス・バナナ
に多く含まれているそうです。
厚生労働省 e-ヘルスネット 腸内環境と健康より
また特定保健用食品などとして市販されていますので、効率的に摂取するにはこれらを利用するのもひとつの方法です。市販されているオリゴ糖製品の有効摂取量は、一日あたり2~10グラムです。しかしオリゴ糖を急に摂取すると下痢を起こしたり、おながか張ったりすることがあります。このような場合には1回の量を2~3回に分けて摂取する、または1日あたりの摂取量を減らして数日間かけてもとの摂取量に戻すという方法があります。オリゴ糖に対する腸内細菌の「慣れ」を考えながら摂取することが重要です。
厚生労働省 e-ヘルスネット 腸内環境と健康より
今回は、腸内環境を整えるために役立つ4つの秘訣についてお届けしました。
注記
*O’Keefe SJ et al.Fat, fibre and cancer risk in African Americans and rural Africans.
Nat Commun. 2015;6:6342.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/25919227
英語ではありますが、無料で全文を読むことが出来ますのでご興味のある方はどうぞ。
**今回の例では、アフリカで生まれてアフリカで育ったアフリカ人で、伝統的なアフリカ人の生活をしている農村の方々を指します。