夜食べても太らないと言うのは本当か?
「夜食べると太る」昔から言われている話ですが、食事の時間と肥満の関係についてインターネットで検索すると、夜食べると太るという主張と、夜食べても太らないと言う主張が並んでいます。
ブログ記事のようなものだけでなく、学術的な研究に基づいた記事もやはり、主張が別れています。
夜食べると「太る」or「太らない」どっちが正しいのでしょうか?
夜食べても太らないという主張
夜食べても太らないと主張する記事において、参照されていた文献をチェックした上で4つピックアップしてみました。
夜食べても太らないという主張の基本は、
「体重は食べる量と活動量が関わっているのであって、食べる時間は関係ない」という考え方です。
文献1 「本当か嘘か」夜食べると太る
最初の文献「True or False: Eating at Night Will Make You Gain Weight」(*1)では、食べる時間によって太りやすいわけではないと書かれていますが、夜遅く食べる人は、高カロリー食品を選択する傾向があることを指摘しています。
文献2 科学者が、夜遅く食べると太ると言う神話を払拭する
次の文献「Scientists Dispel Late-Night Eating/Weight Gain Myth」(*2)は、アカゲザルのメスで実験をしたもので、夜食べても太らないと言う主張をしています。
ただ、この資料はコラムの側面が色濃く、実験の細かな手法については記載されていませんでした。
文献3 夕食時に炭水化物を中心とした食事をした時における6ヶ月後の体重減少とホルモンの変化
次の文献「Greater weight loss and hormonal changes after 6 months diet with carbohydrates eaten mostly at dinner.」(*3)は、肥満の警察官100名(結果的に22名が脱落したため、78人の男女)をランダムに割り当てて試験を行ったものです。
夕食時に偏らせて食事をさせたパターンと、通常のパターンで比べたものの、違いは見られませんでした。
食事のカロリーは減量方向にコントロールされており、6ヶ月後彼らはしっかりと減量できた模様です。
文献4 中年男女における、夜に食べることと体重の変化
最後の文献「Night eating and weight change in middle-aged men and women.」(*4)は中年男女2,987人を5~6年間追跡調査したものとなっています。
この内、9%の女性と7.4%の男性が夜食べる習慣を持っていました。
この調査結果は少々面白いことになっています。
男性は食事の時間と体重に関係は見られなかったものの、女性では関係が見られました。
しかも、肥満女性だけが体重増加の傾向にあったというのです。
最後の文献を除き、夜食べたからと言って太るというわけではないという結論を導くのはおかしな話ではありません。
最後の文献にしても、肥満の女性だけが夜食べることで太ったというのですから、必ずしも誰もに当てはまるわけではありません。
夜食べると太るとする主張
次は、夜食べると太るとする主張です。
参照したのは、産業総合研究所(産総研)の大石勝隆氏の研究です。(*5)
大石氏は、ネズミを使った実験を行ったのですが、ネズミは夜行性の動物です。
このため、人間にとっての夜はネズミにとっては昼間であることに注意が必要です。
食事の時間で体重の増加に違いはあるのか
さて、まずネズミを、「自由に食事するグループ」「朝食事をするグループ」「夜食事をするグループ」の3つに分けました。
これらのグループに、メタボ一直線と言うような食事をさせました。
食事内容がメタボ一直線となるようにコントロールされていましたので、当然どのネズミも太ります。
では、どのような違いがあったのでしょうか。
それがこちらのグラフです。
産総研のページ(*5)より引用
その結果、朝食事を食べた(人間にとっては夜)ネズミは、夜食事を食べたネズミより太りました。
朝食事を食べたネズミは、2?3日目に体重が減少しているのですがこの点については言及されていませんでした。
とは言え、4日目からはグングンと体重が増え、1週間後の体重増加率は夜食べるネズミの2倍近い数値です。
最初に紹介した4つの文献では、食べる時間で太るわけではないと言うことでしたが、どういうことでしょうか。
運動量(活動量)の違い
原因のひとつは運動量(活動量)にあると考えられます。
実験のネズミの運動量をグラフにしたのが下の図です。
産総研のページ(*5)より引用
朝食事を食べたネズミは、全体的に活動量が低下しています。
スタートダッシュはどのネズミも変わらないものの、朝食事をしたネズミは、活動が長続きしない傾向が見て取れます。
食べても活動しなければ、太るのはしようがありません。
では、運動すれば太らないのか
そこで、大石氏は運動量をコントロールして観察してみました。
そうすると、朝食べたネズミに運動をさせると、もっと太ったというのです。
理由は、運動以上に餌をたくさん食べたことに有りました。
お腹が空いた(と感じた)から沢山食べたというわけです。
やっぱり、食べる時間と体重増加は関係ないのでしょうか?
結局、食べて運動しないから太るのか
しかし、少し待って下さい。
この実験、太ってダラダラしているネズミが運動をしなかったと言う話ではありません。
もちろん、だらけて運動しない、太りやすいネズミを連れてきたわけでもありません。
健康な、しかも実験用にある程度一定の質が保たれたネズミを連れてきて実験を始めているわけです。
昼間食べたネズミは活動が落ちているわけですが、これはすなわち「エネルギー消費量が少ない」事を意味します。
普通に考えれば、運動しないのだからお腹もそんなに減らないはずです。
しかし、大石氏の実験結果によるグラフでは、食べる量はそんなに変わっていません。
産総研のページ(*5)より引用
昼食べさせると、しっかり食べるのに、運動量が減っているという事実が浮かび上がっています。
なぜ必要と思われる以上に食べるのか
ネズミに昼間餌を食べさせると、からだが必要としている以上に食べるのですが、なぜそんなことになるのでしょうか。
それは、レプチンというホルモンに対する抵抗性が高まったことによります。
レプチンというのは、食欲をコントロールするホルモンで、レプチンが分泌されると食欲が湧かなくなります。
ネズミに昼間食事をさせると、このレプチンが効かなくなってくるというわけです。
まとめ
これまでの考察から導き出される結論は「夜食べると太りやすい」と言うことになります。
確かに、食べる時間と体重増加には関係がないとする研究論文に嘘はありません。
運動量と、それに見合った食事の量をコントロールし続ける限りは、体重は増加しないでしょう。
その様な意味では、夜食べようが昼食べようが変わりはありません。
よく、夜はもう寝るだけだから、遅い時間に食べるとどんどん脂肪として蓄積されるというのは、間違いだと考えられます。
しかし、これらはあくまでも「きちんとした計画のもとにコントロールされている」ことが前提条件です。
食べる時間と体重増加には関係がないとして紹介した文献を、もう一度見てください。
夜食べる人は、ハイカロリーの食事をする傾向にあるということが書かれています。
また、ネズミの実験をもう一度見てください。
健康な普通のネズミが、不規則な時間(昼間)に餌を食べさせられることで、食べる量は変わらな良いのに活動量が低下しています。
人間だって同じことでしょう。
夜遅く食べることで、必要以上に食欲がわき、思わず食べてしまう。
また、たいして食べる量は変わってないのに、知らず知らず活動量が落ちてしまう。
場合によっては、運動をすることで食欲が増進し、活動量以上に食事をしてしまう。
夜バクバク食べるような人は、生活習慣や食事の量などがコントロールされない傾向にあるということ。
そして、その傾向は「その人が元から持っている性格や性質と言う個性」ではなく、夜遅くに食べるという行為が、必要以上の食欲を呼び起こし、身体活動の量も抑えてしまうと言う、悪習慣として根付いていくと言うことに繋がるのです。
参考文献
(*1)True or False: Eating at Night Will Make You Gain Weight
http://health.cvs.com/print.aspx?token=f75979d3-9c7c-4b16-af56-3e122a3f19e3&chunkiid=156995
(*2)Scientists Dispel Late-Night Eating/Weight Gain Myth
Published February 2006. Accessed November 6, 2008.
http://www.sciencedaily.com/releases/2006/02/060202080832.htm
(*3)Greater weight loss and hormonal changes after 6 months diet with carbohydrates eaten mostly at dinner.
2011 Oct;19(10):2006-14. doi: 10.1038/oby.2011.48. Epub 2011 Apr 7.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21475137
(*4)Night eating and weight change in middle-aged men and women.
Int J Obes Relat Metab Disord. 2004 Oct;28(10):1338-43.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/15278102
(*5)「食べる時間」は体内時計が教えてくれる(産総研)
http://www.aist.go.jp/aist_j/aistinfo/bluebacks/no2/index.html