様々な放射線治療

前回は、放射線治療の特徴について説明してきましたが、今回は様々な放射線治療にスポットを当ててみたいと思います。

定位放射線治療

放射線治療には、狙った場所の周辺にも影響を及ぼすと言う欠点がありますが、これを克服しようと試みたのが、定位放射線治療という方法です。

健康な細胞が回復力に優れているとは言え、出来るだけ患部以外には放射線を照射しないほうが良いことは言うまでもありません。
そして、出来れば患部にはより強い放射線を照射したいと言うのは当然の考え方だといえます。

これを可能にしたのが、定位放射線治療です。
患部に対して、四方八方から放射線を照射します。患部には何度も放射線が照射されますが、それ以外の部分には少ない回数しか放射線が照射されないように工夫を凝らします。

こうすることで、患部には高い放射線を、それ以外の部分には低い放射線を照射することが出来ます。

強度変調放射線治療-IMRT-

定位放射線治療を更に進化させたのが、強度変調放射線治療-IMRT-です。
この治療では、放射線を照射する際に均一に照射するのではなく、意図的に偏りを作ります。

放射線の線量が高い場所と低い場所を意図的に作り出しながら四方八方から照射することによって、定位放射線治療よりも患部に集中して放射線を照射することが出来るようになります。

トモセラピー

先程の強度変調放射線治療-IMRT-を更に進化させたのが、トモセラピーです。
トモセラピーは、基本的にIMRT治療なのですが、違いは照射中の機械のコントロール方法にあります。

IMRTでは、あらかじめどこからどの様に照射するかを計画して、からだを固定する器具に放射線を照射する場所に目印をつけることでコントロールしていました。

一方トモセラピーは、放射線を照射すると同時に、CTスキャンを行い、からだの中を見ながら照射する部位や放射線の強度をコントロールすることが出来るのです。

もちろん、トモセラピーでも照射する場所の選定など事前準備はIMRT同様に行いますが、治療中に補正をかけることで、より患部に集中させた治療が出来るというわけです。

陽子線・重粒子線治療

放射線はからだを通り抜けることが出来るものの、あまり深い部分では届かないような場所があるということを書きました。
これは、からだを通り抜ける途中でからだとぶつかり、どんどんと力が弱まっていくことが理由です。

表面ほど影響が大きく、内部ほど影響が弱くなってしまうのです。

これを克服する特徴を持っているのが、陽子線治療や重粒子線治療です。
これまでの放射線治療との違いは、科学的に言えば放射線が波の性質ではなく、小さな粒であるところにあります。

治療の面で言うならば、影響を及ぼす場所をコントロールすることが出来るという点にあります。
例は稚拙かもしれませんが、言ってみれば潜水艦の様なものだと思って下さい。
目的地(患部)まで、陽子線や重粒子線は潜って進みます。そして、患部の位置で浮上して一気に力を開放します。

力を開放してしまえば、力を失ってしまいますので、目的地(患部)だけに効果を表すという訳です。
こんな素晴らしい放射線治療ですが、施設が非常に大きくなってしまう、設置費用が莫大であると言う欠点があります。

陽子線や重粒子線を潜らせるためには、ものすごい速度まで加速させないとならないのです。その速度は光の70%ともいわれます。
加速させるためには、広大なトラック(周回路)が必要となりますので、設備に莫大な費用がかかるというわけです。

このため、誰もが受けられるというわけではなく、陽子線や重粒子線での治療効果が高いと考えられる人たちや、これからの治療の進歩を見据えた治験を中心に受け付けているのが現状です。

また、保険適応はしていないので、一回300万円近い実費を負担する必要があるのも特徴です。
とは言え、治療を受けられるとなれば、ほぼ確実に患部を叩きますので非常に効果の高い治療法のひとつと言えるでしょう。

陽子線と重粒子線のちがい

陽子線も重粒子線も、同じ考え方の治療ですが何が違うのでしょうか。
これは、加速させる粒に何を使うかが異なっています。

陽子を加速させるのが陽子線治療、炭素イオンを加速させるのが重粒子線治療です。
陽子に比べて炭素イオンは大きく重いので、重たい粒、すなわち重粒子と呼ぶのです。

そしてこの違いは、威力の違いにあらわれます。大きく重いものを使うのと、小さいものを使うのであれば、大きく重いものの方が威力が高いことは想像しやすいかと思います。

ただし、加速させるのにも手間がかかります。いわばトラック(周回路)を大きくしなければならない事になります。

日本には現在16箇所の治療施設がありますが、重粒子線の施設は5箇所だけで、残りの12箇所は陽子線の施設です。(1箇所だけどちらの施設も持っています。)

薬としての放射線治療

これまでは、外から患部に向けて放射線を照射する治療法を紹介してきましたが、からだの中から放射線を照射するという方法もあります。

例えば、甲状腺がんの治療に使われるのは、放射性ヨードと呼ばれる薬です。
このヨードに放射性物質をくっつけて、治療を行おうという方法です。

ヨードというのは、甲状腺に集中して集まる特徴を持っている物質ですのでそれ以外の場所には影響があまりありません。

がんの特徴のひとつに、転移したがん細胞は転移元の細胞が持っている特徴を持つという性質があります。

このため、甲状腺がんが転移していた場合でも転移先の甲状腺がんにヨードが集まっていきますので、転移していても治療効果が現れるというわけです。

体の中に埋め込む放射線治療

外から照射しても届かなかったり、周囲に影響を及ぼすという欠点がある放射線治療ですが、これを逆手に取ったのがこの治療法です。
代表的なものは、前立腺がんの治療に使われます。

前立腺というのは、男性の膀胱の下に付いている器官ですが、この前立腺にいくつもの放射線を出す針を刺すのです。

針が放出する放射線はごく弱く、しかもある程度の期間経過すると放射線が出つくしてしまって単なる針になってしまいます。
針の周囲のごく僅かな部分に放射線を照射し続けることでがん細胞を叩こうというわけです。

今回は、日本で行える代表的な放射線治療について解説してみました。
病気によって行える治療には限りがありますが、もしも放射線治療を行うような場合には、このページを思い出していただくと何かの役に立つかもしれません。

それでは。